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大部屋が空いていない! 差額ベッド代はどうなる?
突然猛烈な腹痛に襲われ救急車で病院に運ばれたAさん。診断の結果、病状は重く、しばらく入院して治療をすることになりました。Aさん家族は入院の準備についての説明を受けました。その際に「いまは大部屋が空いていない」と言われました。そのため、いま空いている2人部屋に入院することを勧められました。ところが、驚いたことに差額ベッド代として1日1万円かかるという説明を受けました。10日間入院ともなれば、差額ベッド代だけで10万円かかるということです。Aさん家族は「空いていないなら仕方がないか」と思いつつも、「そんな大金をどうやって準備したら」と不安でいっぱいです。同意書に署名を求められていますが、どうしたらいいのか分かりません。
そもそも差額ベッド代とは
差額ベッド代とは、大部屋のような通常のベッドよりも、よい環境のベッドを選択することによって発生する追加の特別料金のことです。よりよい療養環境と言ってもピンとこないかもしれませんが、具体的には下記のような4つの条件を満たしたベッドのことを言います。
(1)1病室のベッド数は4床以下であること。
(2)病室の面積は1人当たり6.4平方メートル以上であること
(3)カーテンで仕切るなどベッドごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えていること。
(4)少なくとも下記の設備を有すること。
ア)個人用の私物の収納設備
イ)個人用の照明
ウ)小机等および椅子
このように基本として個々の患者のプライバシーが十分に確保されるベッドであることが条件となっています。1ベッドあたりの面積は6.4平方メートル(約4畳分)以上の面積なので、ある程度ゆったりとした空間です。また、1病室あたりのベッド数は4床以下となっています。差額ベッド代は「個室」に入るとかかると考えがちですが、実は2人~4人部屋であっても条件を満たせば差額ベッド代がかかる可能性があるのです。原則として、その病院のベッド数の5割までを、こうした差額ベッド代のかかるベッドとしてもいいことになっています。
十分な情報提供と患者による自由な選択が基本
差額ベッド代のかかる部屋は専門用語で「特別療養環境室」と呼ばれます。特別療養環境室を利用するかどうかは、あくまでも患者の自由な選択に基づくこととされています。患者の意に反して利用することにならないように、特別療養環境室に入院する際には、病院側は患者側に下記のような情報をしっかりと説明し、患者に同意を求めることが義務付けられていますので、しっかりと納得いくまで説明してもらいましょう。
(1)保険医療機関内の見やすい場所、例えば、受付窓口、待合室等に特別療養環境室の各々についてそのベッド数、特別療養環境室の場所および料金を患者にとって分かりやすく掲示しておくこと。
(2)特別療養環境室への入院を希望する患者に対しては、特別療養環境室の設備構造、料金等について明確かつ懇切丁寧に説明し、患者側の同意を確認のうえ入院させること。
(3)この同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることにより行うものであること。なお、この文書は、当該保険医療機関が保存し、必要に応じ提示できるようにしておくこと。
差額ベッド代を払わなくていいケースがある
差額ベッド代がかかると当然ながら患者には大きな費用負担がかかります。そのため払う、払わないというトラブルが多いのが実態です。
こうした事態を受け、厚生労働省は特別療養環境室へ入院したとしても差額ベッド代を払わなくていいケースが3つ例示されています。この3例を知っておくと差額ベッド代にまつわるトラブルを避けられる可能性が高まりますのでよく覚えておきましょう。
(1)同意書による同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む)
まず1つめは、特別療養環境室に入院する際には同意書に署名をして同意をすることが差額ベッド代を支払う条件になっています。つまり同意書に署名していなければ、特別療養環境室に入院しても差額ベッド代を支払う必要はありません。
また、同意書に室料などを明示していることや十分な説明があることが、病院側が差額ベッド代の支払いを求めてもいい条件でした。こうした要件を満たしていない同意であれば、同意書に署名したとしても差額ベッド代を支払わなくてもいいことになります。
(2)患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
次に、治療上の必要があって特別療養環境室へ入院させられる場合は差額ベッド代を支払う必要がないとされています。「治療上の必要」という言葉の基準が分かりにくいのですが、厚生労働省は以下のよう例示しています。
・救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護および介助を必要とする者
・免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
・集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
・後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く)
・クロイツフェルト・ヤコブ病の患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く)
救急搬送患者、術後患者などで病状が重篤で安静が必要になるケースでは個室に入院するケースは多いものです。こうしたケースは実は治療の必要があるので差額ベッド代を払う必要がありません。
また、免疫力が低下した患者の感染症リスクを下げるために個室などに隔離されるケースも該当します。終末期医療に入っている患者も個室に入るケースは多いはず。集中治療の実施の必要性など条件はありますが、差額ベッド代を支払う必要のあるケースかどうか確認した方がいいかもしれません。
このように、基本的に治療上の必要があって特別療養環境室に入院する場合は差額ベッド代を支払う必要がありません。例外として、後天性免疫不全症候群(いわゆるエイズ)やクロイツフェルト・ヤコブ病の患者の場合は、患者が特に希望して特別療養環境室に入院する場合には差額ベッド代を払う必要があるとされていることに注意が必要です。
(3)病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
最後に病院側の都合により特別療養環境室に入院する場合です。Aさんのように「大部屋が空いていない」というケースはまさにこの例に該当します。いびきがひどかったり、徘徊をしてしまうなどで他の患者からクレームが出て、病棟管理の問題から個室に移ってもらうケースも該当します。また、MRSAなどに感染してしまったことで、他の患者への院内感染を防ぐ目的で、個室などに入院する場合も該当します。
ただし、病院側の都合によって個室に入院する場合でも「実質的に患者の選択によらない場合」という条件があるので注意が必要です。しっかりと制度の説明を受け、条件を満たした同意書に署名すれば、実質的に患者が選択したことになりかねません。その場合は、差額ベッド代を支払う必要があるとも解釈できるので注意しましょう。
制度をよく知ってトラブルを避けよう
そもそも仕組みを知らない人が多い差額ベッド代という仕組み。私たち利用者としては、仕組みをまずは知ることで、トラブルをできるだけ避けたいところです。 差額ベッド代はかからないと思い個室に入院したのに、入院費用として差額ベッド代も請求されたらどうするでしょうか。実は多くの人が、請求通り支払うのが実際です。なぜなら、病院側ともめてしまうと今後の治療に影響がでてしまうのでは、と恐れるからです。 Aさんは金銭的に余裕がないのであれば、まずは安易に同意書に署名せず、特別療養環境室への入院を希望していないことをはっきりと意思表示しておきトラブルを避けたいところです。 差額ベッド代を払ったあとからでも、差額ベッド代の払い戻し請求はできます。もしも、支払う必要はなかったと考えるならば、病院側が差額ベッド代を請求できるルールを確認した上で請求してみましょう。