退職後に保障がなくなると不安

このコラムは一般的な情報をご提供するものであり、当サイトの保険のご加入をお勧めするものではありません。

退職後に保障がなくなると不安

60歳代は多くの人が定年や退職を迎え、生活が大きく変わる時期です。一般的には収入が大きく下がるため、退職金や現役時代に貯めたお金を取り崩しながら生活せざるを得なくなる人も多いでしょう。そしてもう一つの変化が訪れます。退職後はお金だけでなく体の健康にも不安が高まります。それなのに保険や共済の保障が次々になくなっていく年代でもあるのです。

この年代からは医療保険や介護保険に加入したいというご相談が多いのですが、年齢が高くなるほど何らかの病気を抱えているケースが多くなります。保険加入時には健康状態を告知する必要があるので、持病があると保険には入りにくくなります。持病のある人ほど健康に不安があるわけですが、どうしたらいいのでしょうか。


保険に加入する際に必要な健康告知

医療保険は文字通り病気やけがで医療を受ける際に役に立つ保険です。持病のある人や病気になるリスクの高い人ばかりが加入すると、保険会社から見ると給付金を払うばかりとなってしまいます。保険契約者間の公平性を保つために、加入時には健康状態を保険会社に告知することを求められます。

告知の内容は保険会社によって異なりますが、一般的には以下のような6項目程度の質問に答える必要があります。

1. 過去5年以内に①病気やけがで7日以上の入院や手術、②初診日から7日間以上にわたる診察・検査・治療、通算7日分以上の投薬を受けたか。
2. 最近3カ月以内に医師の診察・検査・治療・投薬をうけたか
3. 過去2年以内に健康診断または人間ドックを受けたか。受けた場合、異常を指摘されたか。
4. 視力や聴覚、手・足・指などに障害はあるか
5. 悪性新生物と診断されたことがあるか
6. 現在、妊娠しているか

健康診断や人間ドックを受けたという項目以外は、すべて「いいえ」であれば問題なく医療保険に加入することができるでしょう。ただ、持病がなくても、60歳代となると健康診断で何らかの異常が指摘されている人が多いですし、なかなかすべて「いいえ」とはなりません。

「はい」がつくならば、その内容について細かく回答する必要があります。数年前のことであれば時期も覚えていないかもしれません。薬の名称も分からないことも多いでしょう。それでも、面倒だから、加入できなくなるから、と告知すべきことを告知しなかったり、正しく告知しなかったりしてはいけません。

正しい告知をしていない場合、告知義務違反と判断されると、保険会社は契約を解除することができ、解除された場合は保険金や給付金は支払われなくなることがあるからです。保険会社は責任開始日から2年以内であれば告知義務違反を理由に解除できるとされているので、2年経過すれば大丈夫と考えている人もいます。ところが、保険金等の支払事由が2年以内に発生していれば保険会社は契約を解除することができます。また、重大な告知義務違反があったと認められた場合は、2年経過後でも詐欺無効による契約の取り消しをされる場合もあります。健康状態は保険会社に正しく伝えましょう。

持病があっても加入しやすい引受基準緩和型保険

告知内容に「はい」がつくほど、加入を断られる可能性が高くなっていきます。せっかく「保険に加入しよう」と思ったのに保険会社から加入を断られたら、あなたはどのように感じるでしょうか。多くの人がショックを受けるようです。極端な人は「自分は死ぬのか」と思うこともあるようで、保険会社へのクレームにつながることも多いようです。

そこで登場したのが一般の医療保険よりも告知内容が緩やかになっている「引受基準緩和型医療保険」です。持病があっても入りやすい医療保険の登場で、普通の医療保険に入れなかった人にも別の商品が提案されるようになりました。

ある保険会社の引受基準緩和型医療保険の告知項目は以下のような形です。この保険会社は3つの告知項目すべてが「いいえ」であれば加入することができます。告知内容は保険会社ごとに異なりますが、ほとんどの保険会社で2~3項目に絞られています。各告知項目も3カ月以内に入院・手術・検査を勧められていない、2年以内の病気・ケガでの入院や手術、5年以内のがんなどの履歴となっており、一般の医療保険に比べ持病があっても加入しやすい内容になっています。

1. 最近3カ月以内に、医師から入院・手術・検査のいずれかをすすめられたことがありますか。
2. 過去2年以内に、病気やケガで入院をしたこと、または手術をうけたことがありますか。
3. 過去5年以内に、がんまたは上皮内新生物・肝硬変・統合失調症・認知症・アルコール依存症で、医師の診察・検査・治療・投薬のいずれかをうけたことがありますか。

「こんないい保険があるなら早く教えてよ」と思われるかもしれません。引受基準緩和型医療保険は加入しやすいことがメリットですが、当然デメリットもあります。まず一つ目は、多くの保険会社で加入後1年間は給付金額が半額に削減されます。1年経過すれば、満額の給付金額になりますが、加入後の早期入院が心配な人もいるでしょう。当初1年間も給付金が削減されない引受基準緩和型医療保険も登場しています。

引受基準緩和型医療保険は保険料が割高になる

もう一つのデメリットは保険料の高さです。当然ながら、持病がある人の医療リスクは、持病のない人よりは高くなります。そのため、同じ保障内容であれば、一般の医療保険より引受基準緩和型医療保険の方が保険料は割高になります。どの程度の保険料となるのか、同じ保険会社の商品で比較してみましょう。

<一般の医療保険との比較 (日額5000円 月払保険料 終身払い)>

加入年齢 一般の医療保険 引受基準緩和型医療保険
60歳男性 4,708円 6,588円(+40%)
60歳女性 4,371円 5,623円(+29%)
65歳男性 5,734円 7,506円(+31%)
65歳女性 5,435円 6,555円(+21%)

加入年齢や性別によって差はあるものの引受基準緩和型の保険料は一般の医療保険よりも20~40%程度割高になっていることが分かります。保険会社によっては50%以上割高に設定されている商品もあります。保険会社は慈善事業をやっているわけではなく、確率統計に基づいて保険料を決めているので当たり前と言えば当たり前です。これだけの保険料を負担しても、医療保障を確保すれば安心できるのかどうか考えてみましょう。

一般の医療保険への加入もあきらめない

医療保険には加入したいけれど、やっぱり保険料が高い...、と悩む方もいるでしょう。ぜひ、一般の医療保険にあきらめずにチャレンジしてみてください。持病があっても加入できる場合があるからです。

保険には持病があればまったく加入できないわけではありません。病気になった履歴があっても完治していれば加入できる可能性は高いです。また、持病があっても、病気の種類や状態によっては加入することが可能です。たとえば、高血圧であっても、降圧剤を服用し血圧を安定して管理できていれば加入できる可能性が高いです。

また、保険会社の加入審査には「特別条件付き」の引き受けという仕組みがあります。特別条件には主に「特定疾病・特定部位不担保」「特別(割増)保険料」「保険金・給付金削減」の3種類があります。

特定疾病・特定部位不担保 特定の疾病や特定の部位に関する保障を一定期間もしくは全期間にわたり担保しない条件
特別(割増)保険料 通常の保険料に加えて、特別保険料を加えて支払う条件。保険料払込期間中払う必要がある。
保険金・給付金削減 契約日から保険会社が指定する期間内に、保険事故があった場合、保険金や給付金額を一定割合削減する条件。

持病や病気の履歴がある場合、将来的なリスクの高い病気や特定の部位に関わる病気や障害について保障しないのが「特定疾病・特定部位不担保」です。特定疾病・特定部位不担保がつくと、リスクが高いのに保障してくれないのであれば保険に加入しても意味がない気もします。ところが、不担保期間が3年というように一定期間に限定される場合、その期間を過ぎれば普通の医療保険と同様に保障してくれます。不担保となった期間内に特定の病気や部位に心配がないと思うなら、悪くない特別条件でしょう。

「特別(割増)保険料」は、健康な人よりもリスクが高い分、割高な保険料を払うという特別条件です。もともと保険料の割高な引受基準緩和型の保険に加入しようとしていたのであれば、検討の価値のある条件です。もちろん、引受基準緩和型の保険以上に払うのであればあまり意味がありませんので、比較検討して判断しましょう。

「保険金・給付金削減」は契約日から一定期間内に保険金や給付金の対象となる事故が発生しても保険金や給付金を一定割合削減して支払うという特別条件です。期間の長さ次第ですが、他の2つの条件よりは受け入れやすいでしょう。

あくまで特別条件は保険会社側が被保険者の健康状態を審査した上で「普通の条件では引き受けることはできないけど、こういう条件付きであれば引き受けますよ」というものです。契約する側が特別条件をつけるかどうか選択できるものではありませんので注意しましょう。また、引受基準緩和型医療保険は特別(割増)保険料が標準でついていて、商品によっては給付金削減もついていると考えると分かりやすいでしょう。

貯蓄でカバーすることも一つの選択肢

一般の医療保険に加入できない、引受基準緩和型医療保険には加入できるけど保険料が高い、と躊躇する人も多いでしょう。中には引受基準緩和型医療保険にも加入できない人もいるでしょう。

医療保険がカバーしてくれる経済的リスクはそれほど大きくはなく、医療保険に入って得られる安心にも限度はあります。日額5000円の医療保険に加入して60日入院した場合、受け取れる入院給付金は30万円です(1入院限度日数が60日以上の医療保険の場合)。

医療保険に加入できるならいいのですが、加入できないからと言ってむやみに不安になるのは止めましょう。支払うと覚悟していた保険料分を積み立てて貯めていけば、数十万円程度であれば数年で貯まるはず。老後の医療リスクは貯蓄でカバーすると割り切るのも一つの選択肢にしましょう。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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