データから読む私たちの医療保険

このコラムは一般的な情報をご提供するものであり、当サイトの保険のご加入をお勧めするものではありません。

データから読む私たちの医療保険

私たちが支払っている保険料はさまざまな統計データを元に計算され決められています。医療保険の保険料を決める際に参考にされることが多いのは「患者調査(厚生労働省)」で3年に一度まとめられています。最新の平成29年(2017年)版の患者調査が2019年3月に公表されました。最新データをみながら、私たちが医療保険に加入する際に注意すべき事項を見ていきましょう。


男性よりも女性の方が医療にかかる率が高い

患者調査では私たちが受ける医療に関するさまざまなデータがまとめられています。そのうち重要なデータの一つが「受療率」です。受療率とは、調査をおこなった特定の時点で、人口10万人あたりでどれだけの人が入院や通院で医療を受けているかを示すものです。総数でみると入院の受療率は10万人分の1036人なので1.036%、外来の受療率は10万人分の5675人なので5.675%の人が調査日時点で入院、外来通院していたことになります。

男女別でみると、入院、外来ともに男性よりも女性の方の受療率が高くなっています。特に女性が出産する年代は、受療率が男性よりも高くなる傾向が強くなります。

<図表>男女別、年齢階級別受療率
(出典:平成29年 患者調査(厚生労働省))

男女別、年齢階級別受療率

年代別にみると、子どもの年代の入院は少ないものの外来が多いことが分かります。子どもの医療保険は入院保障だけでなく通院保障を確認したいところです。ところが、医療保険に付加される通院保障の大半は「入院後の通院」にのみ保障するものばかり。この場合は、そもそも入院しなければ保障されませんので注意しましょう。一方で損害保険会社やこども共済などのケガに対する傷害保険では、一般的に入院しなくてもケガの治療で通院するだけで給付金がもらえます。

また、高齢期になると受療率が急上昇します。入院の受療率を見ると男性は50歳以降、女性は55歳以降に急上昇していることがわかります。医療保障は現役時代も必要な保障ですが、高齢期にこそ本当に心強い保険です。昨今、医療保険の主流が終身医療保険になってきているのは、こうしたデータからも理解ができます。

受療率は年々低下している

次にこの受療率の年次推移を見てみましょう。受療率は年々低下する傾向にあります。入院の受療率の低下は特に顕著で30年前と比べると2~3割低下しています。一方で外来の受療率はあまり低下していません。また、外来の受療率を年代別にみると、65歳以上の受療率は低下していますが、0~14歳の年齢はここ最近高まっています。

<図表>年齢階級別受療率の年次推移
(出典:平成29年 患者調査(厚生労働省))

年齢階級別受療率の年次推移

年々短縮化される在院日数

もう一つの重要なデータが退院した患者さんの「在院日数」です。入院から退院までに何日間入院しているかが分かります。まずは平均在院日数の年次推移を見てみましょう。ここ30年を見ると年々平均在院日数は短くなっています。総数では平均在院日数がついに30日を割り込み29.3日にまで短くなりました。在院日数の短縮化は医療技術の発展の影響も大きいですが、医療費を抑制するための政策として長期の入院がしにくくなっている様子がみえてきます。

<図表>施設の種類別にみた退院患者の平均在院日数の年次推移
(出典:平成29年 患者調査(厚生労働省))

施設の種類別にみた退院患者の平均在院日数の年次推移

高齢になるほど平均在院日数は急激に長くなる

とは言っても、医療保険が必要なくなるわけではありません。なぜなら、高齢になるほど、また病気によっては入院がとても長くなるからです。傷病分類別にみた平均在院日数を見てみましょう。

35~64歳の働き盛りの年代の平均在院日数は21.9日です。一方で75歳以上の年代は43.6日と2倍近くにのびることが分かります。在院日数が長くなるほど、医療費負担は増える傾向にあります。現役時代に比べ高齢期は受療率も急激に高くなりますから、高齢期の医療費負担に対する備えはしっかり準備しておく必要があります。

<図表>傷病分類別にみた年齢階級別退院患者平均在院日数
(出典:平成29年 患者調査(厚生労働省))

(単位:日)

疾病分類 総数 0~14歳 15~34歳 35~64歳 65歳以上 75歳以上
総数 29.3 7.4 11.1 21.9 37.6 43.6
感染症及び寄生虫症 24.6 4.4 10.2 18.2 36.0 40.3
新生物 16.1 14.3 10.2 12.0 18.2 21.5
血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 20.6 9.8 10.1 15.9 25.0 27.4
内分泌、栄養及び代謝疾患 26.6 4.7 10.7 16.3 34.0 39.3
精神及び行動の障害 277.1 44.4 56.7 186.3 495.4 520.9
神経系の疾患 81.2 13.1 28.1 44.6 116.5 142.0
眼及び付属器の疾患 3.4 3.5 5.9 4.6 3.1 2.9
耳及び乳様突起の疾患 7.7 3.4 6.3 8.0 8.5 10.5
循環器系の疾患 38.1 9.4 12.4 20.3 43.3 52.9
呼吸器系の疾患 25.3 4.8 7.5 17.9 36.6 39.4
消化器系の疾患 10.8 4.5 6.3 7.6 13.3 16.0
皮膚及び皮下組織の疾患 24.7 5.8 24.2 15.9 31.1 34.0
筋骨格系及び結合組織の疾患 29.4 10.4 11.5 20.4 35.3 41.6
腎尿路生殖器系の疾患 20.8 8.2 4.7 10.2 28.5 33.1
妊娠、分娩及び産じょく 7.6 6.0 7.4 8.0
周産期に発生した病態 11.4 11.4 2.0
先天奇形、変形及び染色体異常 16.9 11.7 14.8 35.5 52.0 66.8
症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの 21.8 3.4 9.0 14.1 31.5 36.2
損傷、中毒及びその他の外因の影響 31.1 3.8 11.0 20.1 41.3 45.4
健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用 14.6 5.7 6.9 9.3 26.9 31.3

注:総数には年齢不詳も含む

また、傷病分類別にみるととても入院日数が長い病気があることがわかります。最も長いのが精神及び行動の障害で、いわゆる精神疾患がここに入ります。65歳以上で495.4日、75歳以上で520.9日と驚くほど長い入院をすることになりそうです。一方でがん(悪性新生物)が含まれる新生物は75歳以上でも21.5日、心疾患や脳血管疾患が含まれる循環器系の疾患は75歳以上で52.9日。循環器系の疾患のうち脳血管疾患の在院日数が長期になるため平均が長くなっています。

最近は特定の病気での1入院限度日数を延ばす医療保険が増えています。一般的には3大疾病や7大疾病を原因とする入院をした場合に適用されます。これらは客観的に病気の種類を判別しやすく、統計的にどの程度で退院できるかが分かっている病気です。こうした病気は手厚く保障してするものの、入院が長くなる精神疾患などは除外されるという形を取っています。私たち加入者としては入院が長くなる病気ほど保障して欲しいと考えますが、保障機能を提供する保険会社側としてはリスクが高すぎるという判断になるのです。

これからの医療保険の姿は

入院の受療率が急ピッチに低下し、入院した人の平均在院日数も短縮化するトレンドが今後も続きそうです。入院が短期化し手術や投薬中心の医療となれば、医療保険に入っていても医療費をカバーすることができなくなるかもしれません。現在は入院日額×入院日数で入院給付金が出る保険が主流ですが、いずれこうした入院保障中心の医療保険は時代遅れの保険になるのかもしれません。実際にかかった医療費の自己負担分をカバーする実損填補型の医療保険が注目される時代が来そうですね。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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