医療保険の新しい潮流 入院一時金保障

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医療保険の新しい潮流 入院一時金保障

生命保険と言えば、自分が死んだ時に残された家族が生活に困らないように死亡保障に加入するというイメージが強くあります。ところが人生100年時代を迎えたことで、自分が生きているときのための保障に注目が集まっています。長生きするほど病気やケガになる確率も高くなります。そのため、医療保険は次々と新しい保障が開発されている分野です。今回は医療保険のこれまでの歴史と、最新トレンドを見ていきましょう。


わが国での疾病関係保障は50年を超える歴史

生命保険に加入する際には「死亡保障」と「医療保障」が基本セットのように扱われます。それぞれの保障は歴史が長く、昔からセットで販売されてきました。

第2次世界大戦前から生命保険と言えば養老保険が主力商品でした。養老保険とは保険期間内に亡くなれば死亡保険金が支払われますが、満期まで生存していれば満期保険金が支払わる保険です。つまり、亡くなっても、生きていてもとにかく保険金がもらえる理想的な保険です。こうした貯蓄性の高い保険でも、昔は利率が高かったので割安な保険料で加入することができました。超低金利環境下の現在では養老保険の保険料は割高になりほとんど見ることなくなりました。一方で、利率の高低があまり関係ない掛け捨ての定期保険などが主流となっています。

わが国で疾病関係の保障が登場したのが1967年(昭和42年)で、1975年ころまでには各社で疾病入院や手術に対する保障が特約として開発されました。ちょうどこのころ、外資系の保険会社がわが国に進出し、単品の「がん保険」や「医療保険」を発売しました。医療関係の保障は死亡保障に比べると新しい保障ですが、もう50年以上の歴史があります。

「手術保障」は医療技術の進化への対応の歴史

近年の医療技術の発展に伴い、医療保険にもさまざまな内容の保障が登場しています。ただ、これだけ長い歴史を経ても医療保障の基本は入院保障と手術保障で変わりません。

手術保障は、医療機関で特定の手術を受けた場合に給付金を受け取ることができる保障で、かつては手術の種類ごとに定められた給付金が支払われる方式が主流でした。保険契約の約款の別表には給付金の支払い対象となる手術の種類が限定列挙され、それぞれの倍率が書かれていました。この倍率を手術給付金に掛け算することで支払われる手術給付金の額が分かる仕組みです。多くの保険会社では手術給付金×10倍・20倍・40倍という形で決まっていました。

ただし、この仕組みには約款に書かれていない手術は給付金が支払われないという問題がありました。医療技術の進化とともに、約款の別表に列挙されている手術が古くなってしまいます。時代とともに約款は書き換えられていきますが、支払われるかどうかは基本的に加入時の約款で決まります。古い契約だと約款に書かれておらず、手術をしても給付金が支払われないことが発生したのです。

そうした問題もあり、近年は公的医療保険に連動して給付金が支払われる手術保障が主流となりました。公的医療保険を使って手術を行えば給付金が支払われるので、わかりやすい仕組みです。それだけでなく、対象となる手術も約1000種類と各段に多くなりましたし、医療技術が進歩しても公的医療保険に収載されさえすれば、自動的に手術給付金の対象となっていくので、これまでの問題はほぼ解消されたと言ってもいいでしょう。

「入院保障」が短期入院への対応の歴史

入院保障は、医療機関に入院し一定の条件を満たした場合に給付金を受け取ることができる保障です。入院給付金の支払い条件には主に「最低限必要な入院日数」と「1入院限度日数」があります。それぞれが歴史とともに条件が変遷してきました。

①最低限必要な入院日数

1987年ころまでは20日以上の入院をした場合に1日目から入院給付金が支払われる保険が主流でした。入院の短期化トレンドが続いている現在では、20日以上の入院をしないと給付金が出ないのはほとんど意味がない保障にも見えます。ただ、保険は、滅多に発生しないけど大きな経済的負担が発生してしまうリスクを優先して掛けるのが基本です。長期入院の頻度が高い時代であれば、合理性のある条件と言ってもいいかもしれません。

1987年以降主流となったのは5日以上の入院をしたら、5日目の入院から給付金が支払われる保険です。20日以上から5日以上に大幅に支払い条件が緩和されました。最初の入院4日分は支払われないので、10日間入院したら6日分の入院給付金が支払われることになります。

ただ、この条件だと入院が短く5日間の入院であれば、1日分しか給付金を受け取れません。これでは診断書を取得する費用でほとんど消えてしまいます。そのため、この最初の4日分が免責となる条件が不評でした。

2000年代に入ると短期入院に対応できることを売りにした保険が次々と開発されました。「1泊2日の入院」や「日帰り入院」から給付金を支払う保険の登場です。従来の4日免責条件の医療保険に対する不満が強かったこともあり、これらの新しい条件の医療保険は大ヒットし、従来の5日以上入院が必要な医療保険からの見直しも多く発生しました。

②1入院限度日数

医療保険は何日入院しても給付金を支払ってくれるわけではありません。多くの医療保険で、1度の入院で給付金が支払われる日数の条件が決まっています。この条件のことを1入院限度日数と言います。

もともと1入院限度日数は120日、180日といった長期入院対応型の医療保障が中心でした。入院が長期になるほど経済的負担は大きくなるわけなので保険らしい条件で、長らく1入院120日型が医療保険の主流でした。

この流れが大きく変えたのが2002年にアフラックから発売された終身医療保険EVERです。1入院限度日数は60日とし、その代わりに保険料を割安に設定しました。この保険がヒットしたことで、今や1入院60日型が主流となりました。ただ、長期入院への備えも軽視されているわけではなく、3大疾病や7大疾病による入院に関しては1入院限度日数を120日や無制限にまで延長する特約を付加できる保険も登場し人気化しました。

短期入院問題を解消する「入院一時金保障」

このように入院保障の歴史は短期入院への対応の歴史でもあります。これだけ進化してきてもまだ問題は残っています。「1泊2日の入院」や「日帰り入院」では、1日、2日分しか給付金が出ないことも想定されるからです。短期入院であっても入院すれば医療費以外の費用もそれなりにかかります。それなのに、給付金額がわずかだと、入院給付金を請求する手続きの手間や、診断書を取得する費用などを考えると割に合わないと考え請求をしない人も出てきます。

そこで登場したのが「入院一時金保障」です。日帰り入院でもすれば5万円や10万円といった形でまとまった一時金が支払われる保障で、非常に分かりやすい条件です。どんな入院でもまとまったお金が受け取れるとなれば保険料の面では高めになりがちです。それでも、この形であれば短期入院であっても給付金請求をためらうことは少なくなるでしょう。

このように医療保険は長い歴史の中で進化を続けてきました。新しい医療保険の方が時代にマッチしているのは間違いありません。とは言え、現在加入している終身医療保険の見直しには注意が必要です。新規に加入するには、年齢が高くなるとともに保険料は高くなってしまいます。そのため、保障内容が新しくなったとしても、保険料を比べると見直しのメリットが出にくいケースが多くなるでしょう。

一方で、これから医療保険に入りたい、追加で医療保険に加入したい、と言う方は、新しいタイプの医療保険を選択する方がよいでしょう。現在は以前のタイプの保障から新しいタイプの保障への移行期でもあるので、加入する際には給付金が支払われる条件を確認し、比較検討してから加入するようにしましょう。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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