先進医療特約って本当に必要?

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先進医療特約って本当に必要?

医療技術は日々進歩しています。医療技術が進歩すれば、治療できるようになる病気が増えていきます。人生100年時代と言われるようになりましたが、医療技術の進歩とともに私たちの人生は長くなっています。先進的な医療を受けようと思うと、どうしても気になるのが医療費のことです。

先進医療でかかった費用をカバーするための「先進医療特約」はもはや医療保険やがん保険に標準装備と言ってもいいくらいにメジャーな保障になりました。中には先進医療特約をつけたいがために、新しい医療保険に入りなおす人もいます。これだけ急速に受け入れられたのは「先進医療」という名前のイメージがいいのかもしれません。ただ、勘違いも多い保障なので、しっかりと先進医療について理解をしてつきあいましょう。


先進医療は特例的に混合診療が認められている療養のこと

私たちは病院などの医療機関に行くと健康保険証を提示し診断・治療を受けます。健康保険を提示することで70歳未満の人なら医療費が原則3割負担で済みます。ただし、こうした健康保険が使えるのは原則として健康保険の対象となる医療行為についてのみです。

一般的に新しく生まれた最先端の医療技術などは健康保険の対象にはなっていません。その他、美容整形なども健康保険の対象ではありません。こうした健康保険の対象にならない保険に対する費用は、原則として全額自己負担となります。

ここで言う全額自己負担という言葉には誤解が多く注意が必要です。私たちが受ける一連の医療行為には、たとえば、レントゲンを撮ったり、注射をしたり、薬が処方されたり、とさまざまな要素が含まれています。このうちの一つでも健康保険の対象外の要素(保険外診療)が含まれたとすると、一連の医療行為の費用全体が全額自己負担となってしまうのです。医療費が全額自己負担となる診療は「自由診療」と呼ばれることが多いのですが聞いたことがあるかもしれません。つまり、全額健康保険の対象となる「保険診療」か、全額自己負担となる「自由診療」か、二者択一となるのが健康保険制度の原則です。

有望な新しい医療技術であれば、有効性や安全性を確認するために治験や症例を早く積み重ねていきたいものです。先進医療とは「将来的な保険導入のための評価」を行う療養のことを言います。こうした評価を進めるために、厚生労働省が先進医療と認めた治療を、実施することを認めた医療機関で受ける場合には、特例的に健康保険の対象とならない保険外診療を保険診療と併用する、いわゆる「混合診療」を認めているのです。わが国の健康保険制度では、この混合診療は原則として禁止されているのですが、特例として認められている療養の一つが先進医療です。

先進医療の医療費の自己負担はこうして計算される

では、混合診療医療費の自己負担の考え方を、総医療費が100万円で、うち先進医療にかかる費用が20万円の図のようなケースでみてみましょう。この場合、健康保険の対象となる部分は80万円です。3割負担であれば24万円を自己負担します。結構高額な負担となりますが、高額医療制度を適用すれば負担はさらに軽くなります。一方の先進医療部分20万円は全額自己負担になります。このように先進医療であれば、保険診療と、保険外診療を特例的に併用できるのです。


●先進医療の自己負担の考え方(厚生労働省HPより)


先進医療には2種類ある

先進医療と一言で言っても、先進医療Aと先進医療Bに分けられています。先進医療Aは未承認等の医薬品や医療機器を使用、医薬品もしくは医療機器の適応外使用を「伴わない」医療技術です。一方、これらの使用を「伴う」医療技術が先進医療Bと分類されます。
令和4年6月末時点で、先進医療Aには26種類、先進医療Bには57種類の先進医療技術が認められています。また、それぞれの先進医療技術とごとに、その医療行為を実施できる医療機関が登録されています。

では、こうした先進医療はどの程度利用されているのでしょうか。2021年7月~2022年6月までの1年間のデータで利用者数を見てみると、先進医療Aは25,011人、先進医療Bが1,545人と、大半が先進医療Aとなっています。
次に先進医療費用の総額を見てみると、先進医療Aが約61億円、先進医療Bが約5.7億円です。この費用を利用者一人当たりにすると、先進医療Aは約24万円、先進医療Bは約37万円と先進医療Bの方が高額になっています。ただ、先進医療というとものすごく高額な費用がかかるイメージがありますが、思ったよりも払えそうな金額ではないでしょうか。

1件あたりの先進医療費ランキング


●1件あたり先進医療費ランキング(先進医療A)


では、実際に全額自己負担することになる先進医療費はどの程度かかるのか、医療技術ごとにみていきましょう。まずは、利用者数の多い先進医療Aの1件あたり先進医療費のランキングです。最も先進医療費のかかる先進医療技術は「重粒子線治療」の約316万円でした。第2位は「陽子線治療」の約269万円となりました。それぞれ先進医療費が300万円前後とかなり高額ながんの治療技術で、実施件数も重粒子線治療が562件、陽子線治療は1,293件と多いことが特徴です。
また、3位は約72万円、4位は約39万円と3位以下はすべて先進医療費が100万円未満になります。先進医療Aに分類される先進医療技術の大半は数万円、数十万円の費用で済むことがわかります。


●1件あたり先進医療費ランキング(先進医療B)


つぎに、先進医療Bの1件あたり先進医療費を見てみましょう。同じように5位までのランキングですが、すべてが300万円超とかなり高額な先進医療費がかかることが分かります。ただし、実施件数は最も多いもので年18件と少なく、自分が受けることになる確率は相当低そうです。このように、先進医療Bは未承認等の医薬品や医療機器を使用、医薬品もしくは医療機器の適応外使用を「伴う」医療技術なので、高額な先進医療費がかかる一方で、実施件数が少ない傾向がみられます。

先進医療の評価が終わったらどうなる?

この先進医療技術は次々と新しい技術が追加される一方で、評価が終わった技術は削除されていきます。削除される理由は2つあります。一つは有効性や安全性が確認できなかったことで単純に削除されるケース。もう一つは有効性、安全性が確認できたことで健康保険に組み入れられるケースです。

先進医療Aで高額な先進医療費がかかるTOP2である重粒子線治療、陽子線治療についても、小児がんや前立腺がんなど一部のがんについてはすでに健康保険が適用されるようになっています。高額な費用のかかる医療技術でも、健康保険が使えるようになれば自己負担は少なくて済むようになるので助かりますね。


●健康保険が適用される可能性のある陽子線治療と重粒子線治療

(2022年4月現在)


このように先進医療特約は全額自己負担になる自由診療に使えるわけではありません。あくまでも厚生労働省が認めた先進医療技術を実施医療機関で受けた場合にのみ使えるものです。先進医療の実施件数は年間2万件程度なので、実際に先進医療特約に入っていることで助けられる確率は非常に限られるでしょう。とは言え、中には自己負担額が数百万円となることがあるのも事実なので、加入していれば安心ではあります。

先進医療特約自体の保険料は月に100円前後であることが多く、それほど大きな負担にはなりません。ところが、終身医療保険は若い時期に契約するほど、月々の保険料も生涯に払う保険料総額も安くなることが一般的です。昔に入った終身医療保険を解約して新しい医療保険に入り直すデメリットは小さくありません。仮に見直すことで数十万円の保険料が余計にかかるのであれば見直しはしない方がよいかもしれません。しっかりとプランを比較検討し必要性を考えて加入しましょう。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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