統計から見える医療保険のトレンド

このコラムは一般的な情報をご提供するものであり、当サイトの保険のご加入をお勧めするものではありません。

統計から見える医療保険のトレンド

今では多くの人が加入している終身医療保険ですが、広く販売されるようになったのはほんの20年ほど前から。それまでは定期型の医療保障が大半でした。20年経過することで終身医療保険の姿も変化しています。その変化は私たちが受ける医療のトレンドに沿ったものです。わが国の医療統計からそのトレンドを確認し、今後の医療保険の選択に活かしていきましょう。


私たちは高齢になるほど医療のお世話になる

病院に行くと高齢者がたくさんいるイメージはあるでしょう。ただ、そうは言っても若者も病気になりますし、ケガもします。実際数字で見るとどのような分布になるのでしょうか。こうしたデータは厚生労働省の「患者調査」で知ることができます。まずは年代別の推計患者数を見てみましょう。

(資料)厚生労働省「令和2年患者調査」


入院患者数を見ると65歳以上の高齢者が50%を超えていることが分かります。病院に行けば高齢者ばかりいるというのは事実のようです。ただ、年々高齢化が進み高齢者の割合が上昇していることも影響していそうです。これでは自分が病気やケガをする確率は分かりません。そこで、10万人あたりの推計患者数である受療率で病気やケガでどの程度の割合で治療をしてもらっているのか見てみましょう。


(資料)厚生労働省「令和2年患者調査」


外来患者の受療率は基本的には加齢とともに上昇していくことが分かります。一方で、14歳までの若者も比較的高いことが分かります。これは児童や生徒はケガや感染症のリスクが高いことが影響しています。
次に入院患者の受療率を見てみましょう。入院患者は0歳時を除き、基本的には加齢とともに受療率は上昇していきます。特に50代以降上昇のペースが上がっていき、特に70代以降は急激に上昇していくことがわかります。
このように統計を見ると若者や現役層はほとんど入院することはなく、外来での治療をしていることが分かります。一方で、高齢になるほど外来だけでなく入院する確率も急激に上昇していきます。

外来患者は横ばい傾向も入院患者は減少トレンド

次に受療率のこれまでの推移を見てみましょう。外来患者については長年横ばい傾向が続いています。時代が変わっても私たちが病気やケガをする確率は大きくは変わっていないようです。
一方で入院患者を見てみると減少傾向が続いているように見えます。1996年には10万人あたり1176人だった入院患者が2020年には10万人あたり960人と1000人を下回りました。この間の減少幅は18%にも及びます。過去に遡り受療率が10万人あたり1000人を下回っていた時代を探すと、若者が多く高度経済成長期だった1970年代にまで遡ります。最近は入院が少なくなったと言われますが、実際に年々減っていることが分かります。


(資料)厚生労働省「患者調査」

コロナ禍の影響はあるが平均在院日数は短縮トレンド

最後に私たちが入院した際の平均在院日数の推移を見てみましょう。1996年には1入院平均で40.8日在院していましたが、2017年は29.3日に短縮化しています。一般的に在院日数が長いほど医療費は高額になる傾向があります。厚生労働省は医療費削減の方針を続けており、在院日数の短縮化を目指しています。
ところが、2020年の統計では一転して平均在院日数が32.3日へと伸びました。コロナ禍の影響が色濃く出ていると言われているものの、コロナウイルス感染症とは関係のない悪性新生物(がん)の平均在院日数も2020年に伸びています。厚生労働省の患者調査は3年ごとに行われていますが、近く発表される2023年分の統計では平均在院日数が再び短くなるのか注目されます。


(資料)厚生労働省「患者調査」

医療保険のトレンドも変わった

統計を見ると私たちが何を重視して医療保険選びをすべきかが見えてきます。まず、高齢期になると急激に医療リスクが高まる傾向は、統計を見なくても多くの人が分かるところでしょう。ただ、ここまで現役時代と高齢期では入院の受療率に差があることは認識していないはず。やはり医療保険は定期型よりも高齢期までカバーしやすい終身型に加入する方がよさそうです。
次に多くの医療保険は入院給付金の出る保障が主契約になっています。ところが、入院の受療率は年々低下しています。また、入院給付金の多くは「入院日額×入院日数」で計算されますが、平均在院日数は短縮化傾向です。健康保険の点数の問題から長期入院をさせてもらえないこともありますが、医療技術の高度化も入院短縮化の原因です。
高度な医療技術を受けるには高額な医療費がかかりがちです。それなのに入院が短く入院給付金がわずかしか出ない、となると保険としての機能に問題が生じます。手術給付金など他の保障でカバーできるかがカギになります。そこで登場したのが入院日数は短くてもまとまったお金が支払われる「入院一時金」の出る保障です。医療技術の高度化による入院日数の短縮化に対応した保障とも言え、今後の主流になっていくでしょう。
新規に医療保険に加入するならこれらのトレンドを踏まえて商品を選びたいところです。すでに医療保険に加入している人は、新しい保険に見直しを検討するかもしれません。ところが、終身医療保険の見直しには注意が必要です。
まず、多くの終身医療保険には解約返戻金がありません。そのため、これまでの保険料はすべて掛け捨てになる可能性が高いでしょう。また、加入年齢が高くなれば新規に加入する医療保険の保険料は高くなるでしょう。これらのデメリットを上回るメリットがあると判断できるなら医療保険を見直しましょう。そうでないなら、これまで続けてきた医療保険を大切にした方がよいでしょう。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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