自動ブレーキを装備した自動車に乗ろう

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自動ブレーキを装備した自動車に乗ろう

またもや痛ましい事故が発生しました。2019年4月19日、東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が暴走し次々と人をはね、母子2人が死亡したのをはじめ10人が死傷する大事故となりました。こうした不幸な事故を無くしていくためには、私たちには何ができるのでしょうか。


高齢運転者の死亡事故は増えていないが...

高齢者の起こした死亡事故のニュースが連日流れるので、高齢者の事故が増えているような印象を受けます。内閣府の『平成29年版交通安全白書』では「高齢者に係る交通事故防止」という特集が組まれ、高齢者の交通事故に関するさまざまなデータが紹介されています。

これらのデータを確認していくと、75歳以上の高齢運転者の死亡事故は10年前に比べると増えてはいるものの、ここ数年は増えていないことが分かります。ニュースなどを見ている実感とはかなり違います。

<図表1>75歳以上の運転者による死亡事故件数及び割合(原付以上第1当事者)

75歳以上の運転者による死亡事故件数及び割合(原付以上第1当事者)

わが国の交通死亡事故件数は右肩下がりで減少しています。このデータの10年前の平成18年(2006年)の死亡者数は6415人だったのが、平成28年(2016年)には3904人へと大きく減少しているのです。その中での横ばいですから、死亡事故全体に占める75歳以上運転者による死亡事故件数の割合が大きく上昇しています。10年前は7.4%でしたが、平成28年(2016年)には13.5%にまで急上昇しています。

75歳以上の事故率は75歳未満の2倍以上

ただ、最近の若者は車を運転する人が減っていますし、人口全体に占める高齢者の割合もどんどん高まっています。そう考えると高齢運転者の死亡事故件数の割合が増えるのは当たり前のようにも思えます。そこで、年齢層別免許人口10万人当たりで死亡事故件数を見ましょう。

75歳未満の運転者の起こした死亡事故件数は10万人あたりで3.8件。一方で75歳以上の運転者の起こした死亡事故件数は8.9件。何と2倍以上の件数が発生しています。やはり高齢者は若い運転者に比べ、死亡事故を引き起こしやすいことがわかります。

<図表2>年齢層別免許人口10万人当たり死亡事故件数(原付以上第1当事者)平成28年

年齢層別免許人口10万人当たり死亡事故件数(原付以上第1当事者)平成28年

死亡事故の要因の第1位がハンドル等の操作不適

全体の死亡事故件数がどんどん減少しているわけですから、高齢者の死亡事故件数も減らせないのでしょうか。死亡事故の人的要因から探ってみましょう。

75歳未満の運転者の死亡事故要因を見ると、1位は漫然運転等の内在的前方不注意で25%、第2位は安全不確認で24%となっています。一方で、75歳以上の高齢運転者の死亡事故要因の1位はハンドル等の操作不適で28%(127件)も占めています。その内訳をみるとハンドルの操作不適15%(69件)、ブレーキとアクセルの踏み間違い5.9%(27件)となっています。

実はハンドルの操作不適は75歳未満運転者でも多く11%(320件)も存在します。一方で、ブレーキとアクセルの踏み間違いは0.7%(20件)と割合がとても小さく、件数でも75歳以上よりも少ないことが分かります。

ニュースで流れる重大事故の原因の多くが、ブレーキとアクセルの踏み間違いです。ここに私たちが「高齢者の事故が増えている」と感じる要因がありそうです。

<図表3>原付以上第1当事者の死亡事故における人的要因比較(平成28年)

原付以上第1当事者の死亡事故における人的要因比較(平成28年)

自動ブレーキシステムで事故は激減する

アクセルとブレーキの踏み間違いは、スピードが出るだけに重大な結果になりやすいものです。当然死亡事故も多くなります。こうした事故は、近年普及が進んでいるAEB(Autonomous Emergency Braking(衝突被害軽減ブレーキ))を搭載する車に乗ることで、かなりの割合が防げるものと考えられます。AEB等の運転者の安全運転を支援するシステムを搭載した自動車のことをASV(Advanced Safety Vehicle(先進安全自動車))と呼んでいます。

このAEBが装備されている自家用車や軽自動車は、装備されていない車に比べ事故率が低くなると期待されます。2010年度から2014年度に国内で販売されたスバル車のうち、アイサイト(Ver.2)搭載車と非搭載車の人身事故件数が分析されています。その結果、アイサイト搭載車は非搭載車に比べ、1万台あたりの事故発生件数が対歩行者事故は49%、対車両の追突事故は84%も減少したというのです。

こうした先進安全システムを装備するにはコストがかかります。一方で、これだけ事故が減少するわけですから、自動車保険の保険料は安くなっていいはずです。実際に2018年1月以降、損害保険各社で「ASV割引」の導入が進んでいます。

ASV割引が適用されるのは、AEBが装備されている自家用車または自家用軽自動車で、割引率は一律9%です。軽自動車はAEBが装備された全型式が対象となっていますが、普通・小型乗用車は発売後3年以内の型式となっています。

車種 ASV割引対象 割引率
自家用普通乗用車
自家用小型乗用車
AEBを装備した
発売後3年以内の型式
一律9%
自家用軽四輪乗用車 AEBを装備する全型式 一律9%

普通・小型乗用車の自動車保険料には「型式別料率クラス」が導入されています。発売後3年を経過した型式の自動車に関しては事故発生状況のデータが蓄積され、その統計的なリスクの大きさが型式別料率クラスに反映されます。型式別料率クラスに反映されるまでの3年間はASV割引を適用し割引するということです。

一方で、軽乗用車に関してはまだ型式別料率クラスは適用されていません。そのためAEBを装備する全型式がASV割引の対象となっています。ただ、軽自動車の保有台数の拡大、形状・構造・性能等も多様化していることから2020年1月までに型式別料率クラス制度の導入が予定されています。導入後は普通・小型乗用車と同じような扱いになるでしょう。

自動ブレーキの装備は進む

高齢運転者の起こした事故によって注目が集まっている先進安全技術ですが、当然ながら高齢者以外にも有効な技術です。AEBだけでなくAT(オートマチック)車の誤発進・誤後進抑制など、事故を減らす技術は開発されています。こうした技術の開発が進み、すべての運転者がこうした技術を装備した自動車に乗るようになれば、事故の減少どころか、事故のない時代へと進んでいくのかもしれません。

高齢者だけでなく、すべての運転者にとって、事故が起こらないことは素晴らしいことです。こうした安全技術の進展とともに自動車保険も変わっています。今後、自動車を選ぶ際には先進安全技術が搭載された自動車を選ぶようにしましょう。

情報提供: 家計の見直し相談センター(外部サイト)

ライタープロフィール

藤川太

ファイナンシャルプランナー。山口県出身。慶応義塾大学大学院理工学研究科を修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事していたが、ファイナンシャルプランナーに転身し、「家計の見直し相談センター」で生命保険の見直しを中心とした個人向け相談サービスを展開している。同センターは2001年の設立以来30000世帯を超える相談を受けてきた。「分かりやすい、納得できる、利用しやすい」サービスを目指して活動中。 著書に『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)、『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新書)などがある。

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